07/01/07
■ [本] 『夜は短し歩けよ乙女』 森見登美彦

私はなるべく彼女の目にとまるよう心がけてきた。吉田神社で、出町柳駅で、百万遍交差点で、銀閣寺で、哲学の道で、「偶然の」出逢いは頻発した。我ながらあからさまに怪しいのである。そんなにあらゆる街角に、俺が立っているはずがない。「ま、たまたま通りかかったもんだから」という台詞を喉から血が出るほど繰り返す私に、彼女は天真爛漫な笑みをもって応え続けた。「あ!先輩、奇遇ですねえ!」…「黒髪の乙女」に片想いしてしまった「先輩」。二人を待ち受けるのは、奇々怪々なる面々が起こす珍事件の数々、そして運命の大転回だった。天然キャラ女子に萌える男子の純情!キュートで奇抜な恋愛小説in京都。
刊行後すぐこの手にしていたならば、間違いなく昨年のベストに推していただろうとまで思えるほどのまことに愛くるしい一冊でございました。その面白さは読みかけ半ばほどでこの寒風どころか季節外れの暴風までが吹き荒れる中、危険も顧みずこの著者の他の作品を求めて書店に足を向けさせるほど。横殴りの突風にバイクがずるりと横滑りして肝を冷やしながらも四軒の書店を巡り、しかし手に入ったのは『太陽の塔』一冊のみ。無念。
ころころと達磨の如く着膨れした体で荒れ狂う寒空の下と暖められた書店内との往復を繰り返したせいか、最後の店を回るころにはわたくしなんだか意識が朦朧としておりまして、普段はレジで訪ねられるよりも先にこちらから「カバーは要りません」という類の人種ですが、このときばかりは意識が麻痺していたせいかうっかりこの決まり文句を言うことも忘れておりました。
「カバーかけますか?」
この言葉を聞くのは随分久しぶりのことと思われましたが、まるで愛らしいげっ歯類のような容姿のレジのお姉さんの笑顔を見て、なんだか大事な勝負事に負けた気分になってしまい、鼻水が止まらずさては風邪でも召したかと思われる現在も甚だ気に障って仕方ないところでございます。
とまあ、思わずこの本の文体を真似してみたくなるほどすっかりやられてしまったわけです。この語り口を読むにきっと日本文学にも造詣の深い人なんだろうなあと思われますが、なぜかマジックリアリズムでもあったりするので饒舌さのあまり慇懃無礼になりはしまいかなどと思っていたら、これが危ういところでひらりと軽やかに飛び越えていってしまい、なんともお腹の底に暖かいものを残してくれるという実に摩訶不思議なものでした。
お酒を飲むことの楽しさをこれほど魅惑的に語ったものにはお目にかかったことがないとすら思わせる第一章。本の価値を笑い飛ばすようでいてその実マニアを泣かせるであろう第二章、面妖な祝祭とその終わりの寂しさを活写する第三章、そしてご都合主義万歳!な構成の妙を見せつつ大団円を迎える最終章。文句のつけようもない一冊でした。満腹。














