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coco's bloblog


07/01/13

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私は自分の迂闊さを呪いながら、SF好きの友人が身振り手振り付きで薀蓄を垂れ流すのを見ていた。場所はいつもの喫茶店で、ここは古本屋の隣という立地に加え、道路に面した窓が広く取ってあり、知り合いを見付けやすい利点もあって、自然と私たちの溜まり場的休憩所になっている。

今日も私がぼんやりと紅茶を飲んでいると、この馬鹿が付くほどSF好きの友人が、「なに、ぼんやりしてるの?」と目聡くやってきた。

彼女はホットミルクを頼むと、私がひとりで喫茶店にいた理由をしつこく聞いてきた。どうやら、彼女にはひとりでぼんやりするために喫茶店に入る、という発想ができないようだ。そういう余裕の無さが男との縁を遠い物にしていると思う。が、それは黙っておこうと思いながら、「ん・・・ちょっと昨日読んだの本のことが気になってね」と言ったのが間違いの始まりだった。タイトルは言わないが、こっそり読んでいたライトノベルに時間旅行のネタがあり、「タイムパラドックスのことを考えていた」と言うと、彼女は「これだから素人は・・・」と、訳のわからない説明を始めた。

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私にだって多少の知識はあるので、わざわざ不必要なまでに捻くった説明をしてもらうことはないのである。しかも、相手は親切心の欠片も感じさせない小馬鹿にした態度である。こんなときに限って、鬱陶しい純文好きの先輩は姿を見せないし・・・私は露骨に溜息を吐きながら窓に顔を向けた。

珍しく私の態度に気付いた彼女は、「あんた、私の説明聞いてるの?」と聞いてきた。

「うぅん。聞いてない」

私は素の表情で彼女に言い、「それより、昨日さ。変な夢・・・見た」と言葉を続けた。彼女の興味を誘うため、わざと・・・見たのところで視線を外す。案の定、彼女は自分がさっきまで講釈していたSFの基本設定的お約束のことを忘れ、「変な夢って?」と聞いてきた。

わは、めっさ単純♪

「んと・・・出だしは、岩波さんが会社の保養所のパンフレットを持ってきたとこで・・・・・・」

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私と早川が喫茶店の窓際の席でどうでもいい話を、盛り上がりもないままに話をしていると、コンコンと窓を叩く音が聞こえた。二人で顔を向けると、そこに岩波さんがにやりと不敵な笑いを浮かべて立っていた。いつものようにスーツ姿だが、彼女が羽織るジャケットのVゾーンはブラウスの胸元を強調するためとしか思えないほど極端な曲線を描いていた。

「乳だけ女、きたーーーーーー!!!」

裏声で私が言うのを聞いて、早川が「ぶっ」と吹き出し・・・次いで、ゲラゲラと笑い出した。

店に入ってきた岩波さんは、「あんたたち、ほんと仲いいね」と笑顔で早川の隣の席に着くと、ブレンドコーヒーを注文する。

暫しの沈黙が続く中で、早川だけはにやにやと笑い続けている。ポーカーフェースができないのが、彼女の良いところだと思うが・・・子供じゃないんだから、多少は表情を隠すことを覚えろよ。それと、人の乳ばっか見ていると変な勘違いをされるぞ。

私の心配(期待)を他所に、岩波さんはバッグから一枚のパンフレットを取り出し、テーブルに対して真横にして開いた。どちらからも同じ条件で読めるようにという配慮だと思うが、それだとウェイトレスの人に見せてるみたいだぞ。

「ここさ、うちの会社の保養所でさ。安く泊まれるんだよね」

「へぇ~」

「ほぅ」

私たちの反応を見て、彼女は満足そうに頷いて、話を次の段階に進めた。

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「どっちみち、あんたたちのことだから、年中家にいて旅行なんかしたことないんでしょ?」

いつもの毒吐きが始まったよ・・・私は岩波さんの横に座って、子供のように拗ねた顔をする早川を見る。

「もうね、近所のお店しか行かなくなったら、ヲタクじゃなくてヒキコモリだよ。あんたたちそんな人生でいいと思ってるの?」

誰がヒキコモリだ?

「どっちみち自覚とか無いんだろうから言っても無駄なんだろうけどさ・・・」

誰がヒキコモリだと?

「だからって、私も鬼じゃないからね。わざわざあんたたちでも行けそうな旅行を計画して上げたのよ」

「え?」

「だから~・・・ここにあんたたちを連れてってあげるって言ってのよ。私が」

嘘だ。

保養所で安く泊まれると知ったけど、一人で行くのが寂しいから誘っているんだ。

「行きと帰りは私が運転するし、夕食の鍋と朝食代だけで泊まりはタダなんだよね、ここ」

「そこって、遊べるところあるんですか?」

「もちろん!でも、近所には何にも無いんだよね」

いま、もちろん!って言ってなかったか?

「ただし、最新のAVセットにカラオケと温泉があるわよ。もちろん、これもタダで使いたい放題よ」

「へぇ~」

早川はさっきから関心しっ放しだけど、ほんとに関心しているのか?

「だからさ、お気に入りのDVDとか持っていって、鑑賞会したり、カラオケで大騒ぎとかできるってわけよ」

でかい乳を強調するように岩波さんは胸を反らしている。

「行くの、私たちだけですか?」

岩波さんとこの社内パーティと銘打った合コンの可能性を考えて、一応聞いてみる。

まぁ、そんなことは無いだろうけど。

「いいや。延流ちゃんも声掛けといたから、いつもの四人だね」

そっちは期待してないんだけど・・・というか、それじゃ普段の生活と一緒じゃないか。旅行っていうのは、日常から離れるところに意味がなかったか?まぁ、早川はすでに行く気満々みたいだし、DVD鑑賞会用にエグいホラーを持って行って全員を蒼白にするのは楽しいかもしれない。

「もちろん、行くわよね?」

岩波さんの問いに、私と早川はコクコクと頷いた。

 

私の話を聞いて、早川は「ふ~~ん」と感心したような声を出した。

「みんなで旅行に行く夢を見たの?」

「うん。まだ続きがあるんだけど・・・」

「うん」

 早川は、猫のように目を丸くして私を見ている。

こうやってると結構可愛いのに・・・なんで、モテナイのかな?こいつは。



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岩波さんの会社の保養所はスキー場の近くで、ペンションが乱立しているところの少し外れに立っていた。

「スキー場あったんですか?」

「え?あんた滑れるの?」

「岩波さん、滑れないんですか?」

「・・・・・・・・・」

彼女は私を草葉の陰から出てきたUMAを見るような目で見ているが、今時スキーもできないなんて、珍しいのはあんたのほうだよ。ちゃんと言ってくれれば、道具とか先にこっちに送っとくのに。レンタルで滑るのは嫌だし・・・今回は諦めるか。

昼過ぎに到着した私たちは、管理人のおばちゃんに挨拶をして、それぞれの荷物を持って保養所と名の付いたペンションに入っていった。外観は、そのまんまホラー映画に出てきそうな大き目のログハウスで、巨大なマントルピース付き玄関兼居間を見た瞬間、私はここが気に入っていた。

「うわぁ、すごいですね」

吹き抜けになった天井を見上げ、感嘆の声を上げながら、富士見さんがバッグを床に置いた。

「私、こんなところに来たの初めてですよ」

「うはぁ」

早川も富士見さんと並んで、だだっ広い居間を見渡しながら、ぽかーんと口を開けている。

こらこら高校生のお子様と同レベルで驚くなよ。

「まぁ・・・こんなもんよ」

皮張りのソファに踏ん反り返りながら、岩波さんが自慢げに言う。

あんたが建てたんじゃないだろ。

と、心の中でツッコミながら、私は部屋割りを聞いてみる。

「あぁ、ここツインしか無いらしいから、あんたと延流ちゃんが一緒の部屋でいいんじゃない?」

適当に荷物置いちゃっていいよと言う彼女の言葉に従い、私はきゃーきゃー騒いでいる女子高校生を連れて二階に上がる。二人でラフな服装に着替えて、玄関兼居間に下りると、すでに岩波さんと早川は着替えを終えて、私たちを待っていた。早川が恥ずかしそうに顔を赤らめているのは・・・まぁ、深く追求するのはやめておこう。

「さ!温泉行くわよっ!!」

 すっかり仕切りだした先輩を見ながら、「そうやって浮かれていられるのは、私の秘蔵DVDを観るまでだ」・・・と、私は心の中で呟いていた。

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温泉にボタン鍋にカラオケと順調に予定を進め、ついに運命のときは来た。秘蔵DVD鑑賞会の時間である。今回は、岩波さんの発案で、途中で眠った者には罰ゲームが待っていることになっている。

「眠るのだけが禁止事項なのは不公平だ」

私は無表情を装い、岩波さんに進言する。

「長時間、目を背けるのも禁止事項にしてください」

うぐっと半歩下がりながら、岩波さんは私の顔をじっと見る・・・と、私の後ろから富士見さんがぴょんぴょんと跳ねているような声で話に入ってきた。

「欠伸とか鼻で笑うのも禁止してください。ちゃんと真面目に観ない人は罰ゲームがいいです」

振り返った彼女の手には、花柄をバックに目玉ばっかり大きい美少女が立っているパッケージのアニメが握られていた。私と岩波さんが二人で声を詰まらせる。

なんか、それすごいキツそうなんだけど? 

「あははは。それ、破壊力ありそう」

早川は大口を開けて笑っているが、夢であのパッケージを見たときの私の恐怖をしっかりと伝えたいと思った。こんど富士見さんに言って、彼女の家でもどこでもいいからDVD鑑賞会に出席させたる・・・二人っきりのな。

天の采配か悪魔の呪いか、DVDの鑑賞順は・・・岩波さん→早川→私→富士見さんだった。

岩波さんのは十年以上前に撮られた有名な純文学作品の邦画だった。静かな恋愛劇と言うか・・・退屈ってほどじゃないが刺激の無い映画だった。次の早川のDVDは、難解を通り越して駄作じゃないのか?と言いたくなるほど意味不明な洋画だった。一本観終える度に、短い感想を言い合っていたのだが、岩波さんの「あんた、ほんとにこの映画の意味とかわかってるの?」の言葉に爆笑させられた。富士見さんの「もうこれを理解できるなんて言ったら、間違いなくデンパですよ」で、私が呼吸困難になったのは言うまでもないだろう。

そして、私の秘蔵のDVDの時間である。

映画が始まり、深い霧の中を慎重に走る車が画面の中を走り去り、観る者の緊張感を高めていく・・・と、唐突に、

ドンドンドン!!!

と激しくペンションの玄関がノックされ、その場にいる全員が悲鳴を上げた。



ちらっと前を見ると、私の話にすっかり夢中だった早川が、ホットミルクのカップを持ったまま、ぽかんと口を開けていた。

「え?」

「だから、隣のペンションの宿泊客がドアを開けたら死んでた」

「なんで?」

「失血死?かな・・・全身傷だからけだったから」

「でも、こっちのペンションのドアを叩いたんでしょ?」

「うん。ドンドンドン・・・ずるぅって感じだった」

私の顔を見て、早川は嫌そうに顔を歪めた。


 

私たち四人は、このとき初めて降雪のために電話線が切れている事実に気付き、またこの保養所が携帯電話の圏外に建っていることを知った。

「ちょ、これ・・・どうすんのよ?」

遺体に向かって、「これ」は酷いと思ったが、岩波さんが言う「これ」はこの事件そのものかもしれないと考え直す。早川は蒼白になってるし、富士見さんは口を手で押さえたままガタガタと震えていた。

「一旦、死体を外に出しましょう。岩波さん、手伝ってください」

私と岩波さんは、死体の両脚をそれぞれ持って、ずるずると小さな階段になっているペンションの入り口に引き摺りだす。いつの間にか降り出した雪が冷たかった。

死体を動かし終わり、私は真っ白になった景色に落ちている血痕と、足跡に目を向ける。血と足跡は、一番近くのペンションから続いていた。そして、そのペンションの窓から暖かい光が、いまもぼんやりと零れている。

賭けてもいい・・・あそこには、もう生きている人間がいない。

「帆掛!こっち・・・早く入って!!」

靴の雪を爪先で蹴って落としている岩波さんの向こうで、泣きながら早川が私を呼んでいた。私はもう一度、隣のペンションを振り返り・・・玄関に入ると、後ろ手にドアを閉めた。

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「それからどうなったの?」

私の夢と同じように泣きそうな顔で早川が聞いてきた。そろそろ終わりにしないと、喫茶店の中で悲鳴とか上げかねないからな・・・こいつ。

「んと・・・怯えて話すこともできなくなった延流ちゃんを部屋で寝かせて、私たちでどうするか相談してたんだけど・・・」

「うんうん」

「そのとき、二階でガラスの砕ける音がしたんだよね。んで、みんなで二階に上がると」

「・・・・・・」

「布団ごと空中に浮かんだ延流ちゃんが、ズタズタに切り裂かれていくとこだった」

ひっと小さな悲鳴を飲み込み、早川は目を閉じた。怖いなら聞き流せばいいのに、律儀に想像しながら聞いてるのか。

「そのあとは・・・」

「もういい。もういいから!」

半泣きで彼女は手をバタバタと振り回した。

ま・・・ちょうど潮時かな。

と、思ったとき、私たちの横の窓がコンコンとノックされた。二人揃って、顔を向けると岩波さんが文庫本を組んだ手に持って、にんまりと笑っていた。無駄に自信満々な笑顔だった。

「乳だけ女・・・キター」

さっきの怖さを自分で誤魔化すためか、早川が下手な裏声で言った。

「乳だけちゃうねん。お尻もでっかいねん」

私が声を合わせて言うと、彼女はプッと吹き出す。

「ダメだ。ギャグのセンスじゃ、あんたには勝てんわ」

二人でにやにやと笑っていると、岩波さんが店に入ってきてブレンドコーヒーを注文した。

「今日はさ、めっちゃいい話があるんだけど・・・ね」

そう言いながら、彼女は自分のバッグを開き、一枚のパンフレットを取り出した。

「ここ!うちの会社の保養所なんだけど・・・どしたの?あんたら」

私と早川は嫌そうに顔を歪めながら見つめ合った。そして・・・二人で、ゲラゲラと笑い出した。

口に出さなくても、お互いの考えていることはわかっていた。

これじゃ、ほんとにお約束過ぎる・・・そう思いながら、私はお腹を抱えて笑っていた。

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END


最後まで読んでくれた方、お疲れ様でした。

そして楽しい文章を書いてくださった熊猫さんに心よりの感謝を。