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11/08/29

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『風の中のマリア』 百田尚樹 (講談社文庫)


命はわずか三十日。ここはオオスズメバチの帝国だ。晩夏、隆盛を極めた帝国に生まれた戦士、マリア。幼い妹たちと「偉大なる母」のため、恋もせず、子も産まず、命を燃やして戦い続ける。ある日出逢ったオスバチから告げられた自らの宿命。永遠に続くと思われた帝国に影が射し始める。

これは面白かった。単にオオスズメバチの生態が学べるだけでなく、その生態の不可思議がドラマと密接に結びついて一気読み確実レベル

主役のオオスズメバチ以外にも虫たちはみな擬人化され、言葉を喋る。そこに抵抗はあるかもしれないが、虫たちが本来備えているコミュニケーションの手段というのは言葉を超えたものであり、その細やかさを知っていれば、そこだけをことさら責められるものではない。架空の王国を舞台にしたファンタジイ小説のようなものとも読めるが、擬人化されていてもそういったエンターテインメントの手法を越えた生物の根源に迫る感情の発露は、もっと普遍的な力強さを備えているようにも思える。シンプルに生き、文字通り虫けらのように死ぬ。ただそれだけのことで感動してしまう人間の恐ろしさよ。



『釣りガール』 山田典枝(スマッシュ文庫)

光太郎は「釣り部」に所属する高校生。諒と二人だけでひっそりと部活を楽しむ毎日だったが、そこになぜか初心者の美鈴が入部してきた。美鈴は世間知らずのお嬢さまであると同時に、とびっきりの美少女!当初は「お魚さんが好き」というだけで入部した美鈴だったが、だんだん釣りの魅力に惹きつけられていく。やがて微妙な三角関係を形成したところに新たな美女が現れたりして、物語はとんでもない方向へ―。

虫に続いて魚、というか釣りをフィーチャーした作品。好みの題材が続いたが、こちらはいささか期待しすぎたか…。

カバー絵のヤマメなのかサクラマスなのかはっきりしない魚絵には最初から不安を抱いていたのだが、開けてびっくり、中の挿絵には魚一匹描かれていないのであった。釣りをテーマにしたお話なのに釣りのシーンすらほとんどなく、胸とかお尻を強調した絵ばかりなのは一体…。いくらそういうレーベルとはいえ、そこを責めるのはお門違いではないと思うが。帯には「そういう釣りじゃありません!」とあるが、見事に釣られましたよ、おいらは。

さて肝心のテキストのほうはというと、これは釣りと学園コメディが大体が半々くらい。釣りの部分はマニアックになりすぎず説明的な文章も多いので、釣りをしない人でも安心。ただし釣りバトルになったりするのはまだいいとしても、自然や魚に対しての愛情みたいなものがまったく伝わってこないのはつらい。釣るという行為だけが好きだなんて、見栄え重視のバス釣りブームとそれほど変わらないではないか。しかもこの可愛いヒロインは、お魚は好きだけど触るのは気持ち悪いからだめ。ましてやえさの虫類なんてとんでもございませんでございますのよ(こういう話し方をする)…だそうで、これが一番まずいと思う。



『闇の王国』 リチャード・マシスン(ハヤカワ文庫NV)

私の名はアーサー・ブラック。これまでに二十七冊の〈ミッドナイト〉シリーズをはじめ、三十年以上にわたって多くの作品を書いてきた。金を稼ぐために。そしていま、八十二歳になったいま、私がまだ本名のアレックス・ホワイトを名乗っていた十八歳の頃の経験を記そう。これは実際にあった話だ。信じがたい、とてつもない恐怖の数々が記されているが、何から何までが事実なのだ……伝説の巨匠が満を持して放つ、最新長篇。

こんな時代になってもマシスンの新作長編が読めるなんてそれだけで点数は甘くなってしまう。それは最初から判っていたことなのだが、驚いたことにそんな当初の思惑を超えて実に楽しく読めてしまったのであった。

どちらかというとひねくれた類のホラーを多く書いてきた印象のある作者だが、今回怪異の扱いはわりとストレ-ト。怪談の手触りとしては洋の東西を問わない普遍的かつ原風景的なもの。さすがにこの歳になってネタが尽きたか、というのともちょっと違って、細かな仕掛けはいろいろ施されている。

特に語り手の信用ならなさは異世界の住人の捉えどころのなさとも相まって、作品全体のトーンをひどく不安定なものとしている。だのにユーモアとのバランス配分が妙なことになっていて、わりとすんなり筋を追えるマシスン作品の中において、随分変わった味わいのものになっているんじゃないだろうか。

しかし一番の驚きは、この歳になって説教臭さの欠片もないというこの潔さ。じいちゃんが「昔おいらはモテモテでな…」なんて話をするとき、そこには教訓など何もないことがほとんであろうが、まさにそんなお話だったという…。

11/08/18

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『大正二十九年の乙女たち』 牧野修(メディアワークス文庫)

 

日本が戦乱に巻き込まれつつある、大正二十九年。逢坂女子美術専門学校に、四人の個性的な女学生が通っていた。画家としての才能あふれる池田千種。武道に没頭する男勝りな星野逸子。身体は不自由ながら想像力豊かな犬飼華羊。素直で女性らしい優しさに満ちた緒方陽子。戦争の足音が近づく不自由な時代にありながら、短い青春を精一杯謳歌する彼女たち。しかし、その明るい日々に、不穏な影が忍び寄り…。奇才・牧野修、渾身の青春時代小説が登場。


『そこに、顔が』 牧野修(角川ホラー文庫)

「そこに顔が」そんな言葉を残して、大学教授だった高橋の父が自殺した。遺品整理で見つけた父の日記には、不気味な人体実験の経緯と、不気味な人体実験の経緯と、黒い影のような“顔”につきまとわれる妄想が書かれていた。その時ふと背後に、何かの気配を感じる高橋。さらに父と同様、邪悪な“顔”にとりつかれた人々が次々と現れて!?果てしなく連鎖していく、死への欲動と爛れるような悪意。その“顔”を見たものは、必ず死ぬ―!戦慄のリアルホラー。


牧野さんの本を二冊読む。毒気にあてられてやばいことになるんじゃないかと不安であったが、『大正二十九年の乙女たち』はなんと青春少女小説。あれ、なんかイメチェン…ではなくって、そこはさすがの牧野先生、ちゃんとヤバい要素も抜かりなく仕込んであった。

少女小説としてのパートが愕くほどキラキラしていて、そっちに期待して読んでもお釣りがくるくらいこれは気持ちのよいものになっているが、妖しの要素と響きあうことでこの手の小説、この年頃特有の危うさをより引き出してなんとも素晴らしい。

一方『そこに、顔が』は、わりとストレートな怪談風。けれど、こちらにも意欲的な仕掛けが施されていて、死とそれに惹かれる・憑かれるメカニズムは、ともすれば暴くことによる恐怖の減衰という罠に陥る惧れを孕みながらも、そこはしっかり回避しつつラストでなんともいえない含みも持たせ、きっちり怖がらせてくれるのであった。



『フランケンシュタイン 支配』ディーン・クーンツ(ハヤカワ文庫 N)

刑事のカースンとマイクルは、人造人間がニューオリンズの至る所に浸透していることに気づき、デュカリオンはヴィクターの研究所を突き止めようとしていた。一方ヴィクターは、新人種の殺し屋夫婦にカースンとマイクルの抹殺を命じた。そして人造人間の第一号であるデュカリオンが生き延びていて、自分を倒そうとしていることを知る。その頃、ヴィクターの支配下にある廃棄物処理場では異変が…激動のシリーズ第2弾。

クーンツがフランケンシュタイン?という奇妙な印象のシリーズ二作目。駆け足すぎてあまり旨みがない印象だった一作目と比べると、お話が動き始めたこと、笑いどころがわかってきたことで、素直に楽しめた。

笑い、といってしまうのは失礼な気もするが、どこか確信犯めいたこのうっかり具合はやっぱり可笑しいことこのうえなく、天才となんとかは紙一重というにはあまりにも抜けているフランケンシュタイン博士とその取り巻きの愉快な面々が巻き起こす血まみれのコメディは笑いなくしては読めないのであった。

ここ最近の長編で感じる詩情豊かな表現は影を潜めているが、スピーディな展開と適度なアクション、そしてこればっかりはいつも変わらぬ強烈な印象のキャラクターたちによって、クーンツらしさは十分味わえる。評価とは裏腹にいまいち「オッド・トーマス」にノれない読者も、案外こっちは楽しめるかも。



『約束の方舟』 瀬尾つかさ(ハヤカワ文庫JA)

 

12歳のシンゴは、ある日突然幼なじみの少女テルからプロポーズされた。それは、ベガーと遊ぶのを親に反対されたテルの、なんとも破天荒な解決案だった―100年の旅を続ける多世代恒星間航宙船に、突如出現したゼリー状生命体“ベガー”との戦争と和睦から15年。いまだベガーを嫌悪する親世代に対し、彼らと深い絆を結ぶ戦後生まれのシンゴたちは真の共生社会の誕生を夢見るが…陰謀と友悪が交錯する新世代宇宙SF。

こういうジュブナイルっぽいものに弱いとはいえ、これはここ最近の国内SFでは最も楽しんで読めた。

主人公よりわずか3つ下の世代との間にも軋轢があるくらいなんだから、戦争を経験した大人たちとの調停役は困難を極める。しかしライトノベルのように大人を排除して小さな世界をそのまんまセカイとか呼んで都合よく囲いこむこともなく誠意と痛みを伴って描きだし、なんとも心地よい。だからこそあのラストで泣けるのだ。

この必要以上に美化しない神話は萌えもきっちり忘れず…忘れずといえば、忘れてしまいがちなあの年頃特有の痛くて甘くて苦くて酸っぱくて…という実はこれは美化しすぎな感もある心の中の鍵をかけた引き出しの中のあれやこれをも容易に引きずり出し、『スタンド・バイ・ミー』でも『少年時代』でもない不思議な手触りでもって刺激しまくってくれるのであった。


『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』 皆川博子(ハヤカワ・ミステリワールド)

開かれたのは、躰、本、謎。作家生活40年のキャリアを誇る著者の集大成にして新境地! 18世紀ロンドン。増える屍体、暗号、密室、監禁、稀覯本、盲目の判事……解剖医ダニエルとその弟子たちが辿りついた真実とは? 18世紀ロンドン。外科医ダニエルの解剖教室から、あるはずのない屍体が発見された。四肢を切断された少年と顔を潰された男性。増える屍体に戸惑うダニエルと弟子たちに、治安判事は捜査協力を要請する。だが背後には、詩人志望の少年の辿った稀覯本をめぐる恐るべき運命が……解剖学が先端科学であると同時に偏見にも晒された時代。そんな時代の落とし子たちがときに可笑しくときに哀しい不可能犯罪に挑む。


本書については9/25日発売のミステリマガジンにて、応援・解説マンガを描くことになりました。早川さんたち5人+αでお送りいたします。


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11/07/19

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『クロノリス-時の碑-』 ロバート・C・ウィルスン(創元SF文庫)

2021年、タイ。とある夏の未明、天を衝くかのごとくに巨大な塔が轟音とともに出現した。それには20年先の未来の日付が刻まれていた。クロノリス(時の石)と名付けられた巨塔は、その後も続々と現代へ送り込まれ、出現エネルギーで世界各地の都市を破壊してゆく。アメリカの国家機関はついにその出現予知に成功するが…。物語は刻々と2041年へ迫りゆく。空前の時間侵略SF。キャンベル記念賞受賞作。

最初にドカンとハッタリをかませてお話を作ってゆくのは『時間封鎖』と同じ。こちらも相当なスケールでもって掴みはばっちり。ただ、その後の人間模様がSF的なアイディアとうまく絡まず(主人公は一歩引いているので)、中盤はややだれ気味に。ドラマ部分だけとってみても十分面白いのだが、どうしたってSFとして読もうという心構えがこちらにあるのでそこはやはり気になってしまう。

ただし『時間封鎖』で開花する直前の作品という情報は解説から先に得ているわけで、そういう予備知識でもって補えばこれは十分楽しめるものになっている。ここで欠点と見えるものは『時間封鎖』においてきっちりと修正されていることが判るし、湿っぽい人間ドラマと巨視的なハッタリの対比の妙もすでに確立されている。

そんな興味の大きな源になっているのは『時間封鎖』に始まるシリーズの完結編に対する大きな期待度。じゃあそちらのシリーズを読んでいなければ興味も半減なのかというとそんなこともないわけで、やっぱり上手くて面白い語り手なのだなとそこは再認識させてくれるのであった。

なかなか出ない三作目を待つ間の粋な贈り物として、これは大いに満足ゆく一冊。



『キリストのクローン/真実』 ジェイムズ・ボーセニュー(創元推理文庫)

国連での地歩を固めたキリストのクローン、クリストファー。だが折も折、地球へ接近しつつある三個の小惑星が発見された。そのひとつが地球に衝突する軌道をとっているという。やがて全世界を覆う、まさに「ヨハネの黙示録」の実現たる災厄。クリストファーの口から語られる、旧約聖書に秘められた恐るべき真実。そして彼は、人類の運命について語りはじめた…。圧巻の第二部。

大スケールでのハッタリといえば、こちらも負けず劣らずの一冊。『帝国の逆襲』で受けたショックを忘れられない世代の人間として、三部作の第二部はこうでなくちゃねと思わせてくれる、実に理想的なブリッジ。

解説にも書かれているとおり相当歪な構成で成り立っており、前半は黙示録をなぞって進行する地球規模の災厄をローランド・エメリッヒの映画のような細密なディザスター描写でこれでもかとたたみかけて口あんぐり。その開いた口を閉じるまもなく、後半の救世主の語りで顎が外れそうになるほどさらなる大口を強いられる。

つっこみどころは多いが、読んでいる間は疾風怒濤の展開に流され、頭上の「?マーク」はあっという間に押し流されてしまう。ページを開いている間は気持ちよく騙してくれる、こういう作品は大好きだ。

しかもテーマ上、作家の度胸に感服せざるをえないこのお話は、完結編となる次巻でさらにこちらの予想を裏切る展開を用意しているらしい。待ちきれない。



『特捜部Q ―檻の中の女―』 ユッシ・エーズラ・オールスン(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

「特捜部Q」未解決の重大事件を専門に扱うコペンハーゲン警察の新部署である。カール・マーク警部補は「Q」の統率を命じられた。しかし、あてがわれた部屋は暗い地下室。部下はデンマーク語すら怪しいシリア系の変人アサドひとりのみ。上層部への不審を募らせるカールだが、仕事ですぐに結果を出さねばならない。自殺と片付けられていた女性議員失踪事件の再調査に着手すると、アサドの奇行にも助けられ、驚きの新事実が次々と明らかに。北欧の巨匠が本邦初登場! デンマーク発の警察小説シリーズ、第一弾。


ミステリ、ホラーの分野で最近は英米以外のものが多く(主に北欧系)、いくつか読んできたが、いまいちその個性はまだ掴みきれない。もちろん文化土壌の違いといった部分は目に見えてわかるものだが、わりと垢抜けたものが多いので、あまり特別視しなくともどれも純粋に面白い。

面白いといえば、最近のリニューアルしたポケミスの充実度には目を瞠る。これはデンマーク発のベストセラーとのことだが、洗練された語りと生き生きしたキャラクター、そしてサスペンスフルな構成によって、一気読み必至の一冊となっている。

しかしなんといってもアサドというキャラクターに尽きる。進行形の凄惨な監禁事件、左遷同様の主人公のなんとも哀愁漂う生活、それら陰鬱になりがちなところを救ってなお余りあるどころか、さらに突き抜けて輝き、歌って踊って…な観すら漂うこの捜査助手の個性にはしてやられた。全ジャンル通して、今年の助演男優賞候補一推し。そしてこれもまた続編が数作あるそうなので、大いに期待。

11/07/04

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『憎鬼』 デイヴィッド・ムーディ(RHブックス・プラス)

しがない公務員のダニーは通勤途上、ビジネスマン風の男が老女に襲いかかり容赦なく殴打する場面に遭遇した。その後街では平凡な市民が突然凶暴化し、見ず知らずの他人を、友人を、家族を襲う事件が頻発する。メディアは彼らを“憎鬼”と名付けた。死者は増え続け、ダニーは家族と自宅に閉じ籠るしかなかった。やがて軍隊による“憎鬼”狩りが始まり、ゴーストタウン化した街にも希望が見えたかに思えたが、ある朝ダニーの身近に予想しなかった事態が!―。

「ゾンビより怖い」のキャッチフレーズがまず目を惹くが、どちらかというと同じロメロ監督のものなら『ザ・クレイジーズ』が近いか。感染して死亡して甦って…というプロセスがあるのではなく、いきなり凶暴化するという意味で。

ゾンビもののバリエーションと読んで差し支えないが、多くのゾンビものの共通テーマとされるものが、設定における差異によってより複雑に、あるいは明確に見えてきて面白い。例えば感染者が囚われる怒り。愛する者に対してもいらいらを募らせることなど日常普通にあることだが、そこで抑えが効かないため事態は地獄の様相を呈する。一人称によって描かれる家庭崩壊の描写は実に生々しく、家庭という最小単位ながら本来最も強固なはずのコミュニティの境界が感染者と非感染者へとシフトしてゆく様も、なにやら象徴的である。

ネットを見回していると毎日毎日そこかしこで敵対者を作りあげては諍いを繰り広げる様が目に飛び込んでくる。何も政治や信条を礎としたものだけでなく、それはもう些細な言葉尻だけつまみ上げてはねちねちと…といった小さなクラスタ間の小競り合いまで。一体なぜそこまで憎しみをぶつけられるのか、モニターの先にいるのは本当に自分がこれまで考えてきた人間というものと同種のものなのか、それほどまでに考えさせられてしまう。本書における感染者の非感染者に対する憎悪は、まさにそういったショウケースの様相。本書で一切ネットに触れられないことが逆にそこを際立たせるというか、普段ネットにどっぷり浸かりつつも常々疑問と恐怖に囚われているからこそこの恐怖を身近に感じられるというか。なので『クレイジーズ』の感染者のように心神喪失するのではなく一方で理性を残しつつ同朋意識を保っているこの設定は、シリーズ二作目以降の展開に対して大きな興味を持続させる。憎悪とは逆に隣人への無関心や虚無感が大きな意味を持っていたかつてのモダンホラー作品と比べてみるのも面白いかもしれない。



『アレクシア女史、飛行船で人狼城を訪う』 ゲイル・キャリガー(ハヤカワFT文庫)

異界族の存在を受け入れた19世紀のロンドン。この地で突然人狼や吸血鬼が牙を失って死すべき人間となり、幽霊たちが消滅する現象がおきた。原因は科学兵器か疫病か、あるいは反異界族の陰謀か。疑われたアレクシア・マコン伯爵夫人は謎を解くため、海軍帰還兵で賑わう霧の都から、未開の地スコットランドへと飛ぶ――ヴィクトリア朝の格式とスチームパンクのガジェットに囲まれて、個性豊かな面々が織りなす懐古冒険奇譚

魅力的なキャラのバタバタした立ち回りが実に楽しい<英国パラソル奇譚>二巻目。一巻ラストであっさり結ばれてしまったヒロインとヒーローだが、これは多くのロマンスものシリーズのようにじれったさを感じさせることなく物語のテンポを維持して正解。のみならず結ばれたからこその関係は微笑ましさも倍増。所帯じみたコメディと異常な事件との対比も鮮やかに、一気に読ませてくれる。新登場のキャラクターも個性がかぶることなく皆際立って忘れがたい。

スチームパンクらしさは確かに増しているが、でもやっぱりそんな世界設定よりもキャラクター主導の面白さなんだなあ。一巻で結婚ときて二巻でのラストにあれを持ってくるところなんかまさにそういうわけで、大道具小道具抜きにしても普遍的な魅力を備えているからこそ、ここまでノれると言えるんじゃないかな。