2010-11-17
ここがウィネトカならきみはジュディ
本 | |
SFでなければ書けない物語というものがある。
たとえばJ.P.ホーガンの傑作「星を継ぐもの」。「正体不明の死体の謎を追うミステリー」と言えなくもないが、「月面で発見された5万年前の死体」となると、SFでなければ成立しない。
そういう意味で、時間SFというジャンルは、まさにSFでなければ書けない物語の宝庫だと言えるのではないだろうか。
時間SFでは、過去に行くにしろ、未来に行くにしろ、行ったり来たりするにしろ、通常では不可能なできごとが起こる。起こすだけなら誰でもできるが、時間SFの醍醐味は起こしたできごとを、きれいに収束させることにある。これができていなければ、時間SFの意味がないと言ってもいい。
本書に収められた13篇の物語は、どれも時間SFの傑作だ。ロマンス、奇想、ループの3つのサブジャンルに分かれているが、そんなことを気にしなくても楽しませてくれることは間違いない。
特に気にいったものをいくつか挙げると、
イアン・ワトスン「彼らの生涯の最愛の時」
ある年の差の離れたカップルの別れと再会の物語。タイムトラベルのために、某有名バーガーチェーンが必要という(いい意味で)バカバカしいアイデアはともかく、彼らの執念には脱帽するしかない。
シオドア・スタージョン「昨日は月曜日だった」
ふとしたことで世界の裏側を見てしまった男の物語。これを読んで思い出したのが、ジム・キャリー主演のある映画。
デイヴィッド・I・マッスン「旅人の憩い」
文体も内容も、とにかくスピード感あふれる物語。場所によって時間の流れが変わるという世界で、一人の兵士の人生がめまぐるしく変化する。
リチャード・A・ルポフ「12:01 PM」
ループもの。主人公は、どうして正気を保っていられるのか不思議なほど、過酷な運命に見舞われる。
そして、もちろん表題作。
自分がこんな羽目になったら、もうこんがらがってしまうだろうと思う。運命に翻弄されながら、それでも必死で抗う方法を探そうという前向きな主人公たちに拍手。